新型コロナウイルス感染症の総括
2021年2月24日 京都大学名誉教授 川村 孝
■ 流行の経過
2020年1月下旬に横浜港を出て香港で下船した乗客の新型コロナウイルス感染症罹患が判明 して以来、日本はこの新しい感染症の当事者となった。
3月下旬から国内で流行が始まり、このまま中国・武漢やイタリア・ロンバルディア州、米国・ニュ ーヨーク州と同じように一気に流行が拡大するかと思われたが、変異したウイルス(欧州型)が国 内に入って旧型ウイルス(武漢型)が干渉を受け、最初の流行(第1波)は途中で終息した。この 間、4月7日に本邦最初の緊急事態宣言が出されたが、それ以前から新規感染者数の減少は始 まっている。
6月下旬から変異型ウイルス(欧州型)による新たな流行(第2波の初期波)が始まったが、8月に 入って梅雨明けの連日の猛暑でウイルスが活性を落として小康状態となり(終息はしていない)、9 月以降に気温が低下してウイルスが活性を取り戻し、蔓延が進んだ10月下旬からあらためて流行 が拡大した(第2波の本波であって第3波に非ず)。 2020年末~2021年初(感染日ベース[註1])には感染が行き渡って増加が止まり、およそ10日間 のプラトー相(高原状態)を経て減少が始まり、本項執筆時点(2月24日)でも引き続き減少し続け ている。
昨年3月のウイルス変異は予測できなかったが、6月以降の流行(盛衰時期、新規感染者数)は 予測(本欄2020年5月15日付既報)通りであり、1月にプラトー相に入ることやピーク値が移動平均 で1日6000人であることも年末に予測できた。第2波は理屈通りに進んでいる。
この先は、感染余地のある人たちが離散した状態になるので、新規感染者数が指数関数から外 れて不規則になるものの、3月中か4月初旬に事実上終息する見込みである。緊急事態宣言を解 除すると一時的に新規感染者数が増えて流行が再燃したように見えるが、その分早く終息するの で(後述の論理)、総感染者数にほとんど差は出ない。もちろん今までの個別の衛生行動(手洗い や消毒など)は続けるという前提ではある。
既感染者は免疫を獲得して抗体を持っており、市中に蔓延していながら感染を免れた人は非特 異的免疫(自然免疫)を有しているか徹底した衛生行動を行っている人なので、終息後の市中に ウイルスが乏しい状態では感染は起こりにくい。少数の未感染・無免疫者の間で細々とウイルスが 引き継がれるのみである。獲得免疫が切れる半年後以降で気温の下がる晩秋~初冬から改めて 流行する可能性がある。ただし、ウイルス側の免疫に関わる部分に大きな変異が生ずれば、早期 流行の可能性も否定はできない。

~中略~

■ まとめ
新型コロナウイルス感染症はインフルエンザと同様に自然の摂理に従って流行する。すなわち、 初冬から流行が始まり、感染する余地のある人(本邦では人口の1%以内)の間で一巡するまで流 行は続く。流行の規模はウイルスの変異の程度など生物学的要因によって決まり、社会施策は流 行の拡大速度を修飾しうる。また、啓発によって国民がしっかり衛生行動をとると流行のピークは 低く、流行期間は長くなり、反対に強く意識しなければ流行は短期間に拡大し、流行期間は短く なる。この種の感染症の流行は、変異を除いて予測が可能である。
感染症に対する施策として本邦で重要なのは、医療の柔軟性の強化である(本欄2020年12月2 日付既報)。予防接種は流行規模を縮小する有効なツールとなることが期待されるが、効力の持 続期間を考慮して本邦では晩秋にインフルエンザと同時に接種することが望ましい。そして何より大事なのは、政府が先を見通せる側近を抱えることである。

京都大学名誉教授川村孝氏の「新型コロナウイルス感染症の総括」は非常に興味深く、流石の内容である。今の政府には科学がない。故に、まったく先が見通せないのだ。