あわて者の女房が道で伊勢屋のお内儀(かみ)さんに出会い、「旦那様は、おかわりなく・・・」 と言いかけて、伊勢屋の主人が3ヶ月前に死んだことに気づき、 お亡くなりになったまんまでござんすか?」。江戸の小咄(こばなし)にある。 ◆失言は誰にでもある。 普通はこの女房のように口走った瞬間、「まずい!」と悟るものである。 一夜明けてようやく悟るのは、よほど言葉に鈍感な人だろう ◆鳩山首相はきのう、“小沢資金”疑惑の石川知裕容疑者(民主党衆院議員) について「起訴されないことを望む」と語った前夜の発言を、不適切と認め、撤回した ◆検察のトップ、検事総長の任免権は内閣にある。内閣の長たる首相の<不起訴祈願> は、捜査への介入とみなされても仕が方ない。口走った直後に取り消しても遅すぎるほどの 重大な失言である。検察当局を批判する小沢一郎幹事長に告げた「闘ってください」。 普天間問題でオバマ米大統領に告げた「トラスト・ミー」(私を信じて)。 ため息も3度目になる ◆小咄に出てくるあわて者の女房が、にわかに見識のある常識人に思えてくるから、 困った政権である。
2010.1.23 読売新聞「編集手帳」より

もう11年も前の読売新聞のコラム「編集手帳」である。短い文章の中にユーモアを交え、主張すべき内容を盛り込んでいる。新聞各紙のコラム欄にはいつも感心させられる。

そもそもコラムに記載される文章は、その著者に文章力だけでなく、古今東西にわたる幅広い知識、教養そしてその時の情報を得るためのアンテナなどの能力が必要とされる。コラム欄は、毎日異なる題材を考えなければならないという著者にとってかなり過酷な仕事で、新聞社の中でも選ばれた人しか携われない。