・・・駿河湾で発見され、ヨコヅナイワシと命名された新種の深海魚である。生息する深さの海中では、小指の先ほどの面積に数百キロの水圧がかかるという◆体長1メートル超の体全体で受け止めてきた力の大きさを想像するのは難しい。暗く冷たい深海での暮らし――思えばコロナ禍の巣ごもり生活が、それに似ている◆感染拡大で再発令中の緊急事態宣言が延長される見通しとなった。宣言下にある地域の多くで、医療体制は依然厳しい。我慢の日々が、今しばらく続くことになる。深海の横綱は厳しい環境に適応し、人知れず生きてきた。辛抱強さを見習いたいところだが、気がふさぐときもあるだろう◆同じく海に暮らす生き物を詠んだ句がある。<憂きことを海月に語る海鼠かな>(黒柳召波)。・・・
2021/02/02 05:00 読売新聞 編集手帳より

毎日名文を書かれている編集手帳の著者とその文章について批判するつもりがないことを、まず申し上げておきます。

このサイトの管理人は物理学について知識が乏しいゆえ正確なことは言えないのですが、「小指の先ほどの面積に数百キロの水圧がかかる」について少々述べさせていただきます。

1気圧は、約1㎏/1㎠です。水深10mでは1気圧になり、物体の周りの全方向から約1㎏/1㎠の圧力がかかります。100mで10㎏、500mで50㎏になります。ヨコヅナイワシは水深2000メートルを超える深海に棲息しているようですので、水圧は200㎏を超えます。しかし著者殿は、すべての方向からほぼ同じ水圧がかかっているということ、実際は下方からの水圧が上方からのものより少し大きいことを理解してないようです。すべての物体は水中で、その物体が押しのけた水の体積分の重量に相当する浮力が生じます。

したがって、ヨコヅナイワシは数百キロの水圧でも重さを感じることはないのです。ヨコヅナイワシが水圧に潰されずに、沈むことも、浮くこともなくその深さで棲息できるのは、魚体の表面の鱗などが水圧に耐えられるように頑丈にできていることと、その魚体の比重が水とほぼ同じであることによるものです。

著者殿の言わんとするところとは関係ない野暮な講釈でした。

タイトル「憂きことを海月に語る海鼠かな」の作者黒柳召波は、別号を春泥舎という江戸中期の俳人で与謝蕪村の高弟。「海底に棲むナマコが浮遊するクラゲに話しかける」という誰も見たことがない光景を描写した想像力豊かな俳句です。しかも、語るのは「憂きこと」として擬人化しています。当時の「憂きこと」とは何だったんでしょうか。編集手帳の著者殿は、それを「コロナ禍を耐える生活」としたのでしょうか。「だれかに愚痴でも言って、気を紛らわす。そんな時間があってもいい。」と締めくくっています。管理人は長年、編集手帳のファンでもあります。2017年に竹内政明氏から引き継いだ著者殿は何方でしょうか。